北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群

 北海道東部のオホーツク海沿岸に所在する北見市常呂遺跡、標津町標津遺跡群は我が国最大規模の竪穴住居跡群で、合わせると5,000軒以上もの竪穴住居跡が地表面から確認でき、その学術的重要性から広大な区域が国の史跡として指定されています。
 両遺跡は、窪みの形状や分布調査の結果から、縄文時代からアイヌ文化期の約8,000年に及ぶ長い期間、営まれていたことが明らかになっています。同一地域において居住が繰り返されていたことは、当該地域の人々が自然と調和して継続的に生活してきたことを物語り、人類と自然の調和を示す顕著な見本であることから、周辺の環境と共に、世界遺産に登録して後世に引き継ぐべき貴重な文化資産と考えられます。

 北海道・北見市・標津町では世界遺産暫定一覧表記載資産候補に係る以下の提案書を文化庁に共同で提出しました。

提案書 全文一括PDFファイル:2.32MB)

     表紙・目次 (PDFファイル:99KB)

    1 提案のコンセプト (PDFファイル:1366KB)
     (1)資産名称・概要
     (2)写真
     (3)図面

    2 資産に含まれる文化財
     (1)整理表 (PDFファイル:79KB)
     (2)構成要素ごとの位置図と写真
       ・常呂遺跡 (PDFファイル:2077KB)
       ・標津町標津遺跡群 (PDFファイル:2821KB)

    3 保存管理計画 (PDFファイル:73KB)
     (1)個別構成要素に係る保存管理計画の概要、又は策定に向けての検討状況
     (2)資産全体の包括的な保存管理計画の概要、又は策定に向けての検討状況
     (3)資産と一体をなす周辺環境の範囲、それに係る保全措置の概要又は措置に関する検討状況

    4 世界遺産の登録基準への該当性 (PDFファイル:90KB)
     (1)資産の適用種別及び世界文化遺産の登録基準の番号
     (2)真実性/完全性の証明
     (3)類似遺産との比較

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北見市常呂遺跡                       

 

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標津町標津遺跡群

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◆「北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群」について

◆経緯

 

 平成18及び19年の2年度にわたり、文化庁からの公募に応じて、各地方団体団体から新たに日本の世界遺産暫定一覧表に記載するべき文化資産が提案されました。平成19年9月、北海道は北見市及び標津町とともに「北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群」を国内暫定一覧表に記載するよう文化庁に提案しました。平成18年度には全国で24件、19年度には「北海道・北東北の縄文遺跡群」(12月提案)を含む32件(18年度案件の再提案19件を含む)が提案されています。

 「北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群」は、北見市に所在する「史跡 常呂遺跡(ところいせき)」と標津町所在の「史跡 標津遺跡群(しべついせきぐん)」から構成されています。2つの史跡ではそれぞれ約128ha・373haという広大な面積が指定・保護されており、常呂遺跡では約2,700軒あまり、標津遺跡群では約2,500軒(隣接の未指定地にさらに約1,900軒存在)という膨大な数の竪穴住居跡が残されています。

◆「世界文化遺産特別委員会」による調査・審議

 平成18年9月、文部科学大臣の諮問機関である「文化審議会」の文化財分科会に「世界文化遺産特別委員会」が設置され、地方公共団体からの提案について専門的な見地から詳細な検討を加えました。 平成20年9月26日、文化審議会の世界文化遺産特別委員会は平成19年度提案の案件に関する調査・審議の結果を発表し、「北海道・北東北の縄文遺跡群」を含む5件を「世界遺産暫定一覧表記載文化資産」とし、それ以外の27件を「世界遺産暫定一覧表候補の文化資産」として整理しました。

 「候補の文化資産」に対してはさらに「カテゴリーIa」「同Ib」「同II」の分類がなされ、「北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群」は「カテゴリーII」に区分されました。特別委員会は「カテゴリーII」に該当する文化資産について次のように総括しています。

 「我が国の歴史や文化を表す一群の文化資産としては、いずれも高い価値を有するものであるが、今回の提案内容を基に世界遺産を目指す限りにおいては、現在のイコモスや世界遺産委員会の審査傾向の下では、顕著な普遍的価値を証明することが難しいと考えられるものである。そこで、これらの文化資産については、当面は、文化財の適切な保存・活用の視点を踏まえつつ、まちづくりや地域づくりに総合的に活かしていくための取組を進めることが望ましいと考える。」

 また、「北海道東部の窪みで残る大規模竪穴住居跡群」に関する特別委員会の総合的評価は次のようなものです。

 「気候環境の影響から、竪穴住居が完全に埋まりきらず、窪みの状態で残されている常呂遺跡、標津遺跡群は、それぞれ2,000基以上から成る我が国最大規模の竪穴住居跡群として知られ、両遺跡は縄文時代早期から続縄文時代を経て、擦文・オホーツク文化期のおよそ7,000年もの長期間にわたって営まれてきたことを物語る資産である。北海道の寒冷気候のために独特の可視的な遺存状況を示す考古学的遺跡であり、7,000年にわたる人類と自然との調和の過程を示す考古学的遺跡として、価値は高い。

 そして、引き続き世界遺産を目指す場合の具体的な課題等が、次のように示されました。

 「世界史的・国際的な観点から、人類と自然との調和の過程を示し、独特の可視的な遺存状況を示す考古学的遺跡群の代表例・典型例として、本資産が顕著な普遍的価値を持つことの証明が不十分である。」 

 「地形の凹凸から成る竪穴住居跡の考古学的遺跡の世界的評価の可能性や、北海道における縄文時代から擦文・オホーツク文化、さらには本遺跡群に後続するアイヌ文化の連続性を視野に入れた主題設定及び資産構成の可能性について検討する観点から、北海道オホーツク海沿岸に広域にわたって展開する同種の考古学的遺跡との比較等を含め、十分な調査研究を行うことが重要である。」

◆今後の取り組み

 特別委員会の結論は、北海道と北見市・標津町の提案内容を妥当なものとして評価しながらも、世界遺産登録の条件となる「顕著な普遍的価値」の証明が十分でないことを指摘したものとなっています。たとえ2つの史跡それ自体が重要・貴重なものであるとしても、世界の各地で見られる竪穴住居跡群を代表する存在として並ぶものがない(あるいは少なくともきわめて代表的なものである)ことが証明されなければ、世界遺産にふさわしいとの評価を受けることはできません。

 今後、国内外の他の竪穴住居跡群やアイヌ文化の遺跡群などとの比較研究、遺跡群と自然環境の関連の究明などに取り組み、「連続性のある複数の資産」(serial nomination)としての構成にも検討を加えて「顕著な普遍的価値」の証明をすることによって、国内暫定一覧表への追加記載や、さらに進んで政府による推薦への道も開かれていくものと考えられます。

 北海道と北見市・標津町は、2つの史跡の適切な管理を通じて世界遺産条約の本来の目的である文化財の保存・継承を確保しながら、北海道の東北部を代表する先史文化遺産としての「窪みで残る大規模竪穴住居群」の真価を明らかにするため、長期的に取り組みを継続して行く考えです。 

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